「技を極めた状態を10だとすれば、一人で黙々と技を磨いても半分の5にたどり着くのが精一杯。人に技を伝承してはじめて10を極めることができると思うのです」と肥後象嵌士の稲田憲太郎(33歳)さん。
小さい頃から地域や親戚に肥後象嵌士がいた。自然に象嵌の魅力に惹かれ19歳で象嵌士になることを決意、肥後象眼師河口知明氏に弟子入りした。
7年間の武者修行を終え27歳で独立する。今は多くの象嵌技術に触れ技術を高めることに力を注ぐ。
以前に比べると作品を平面的ではなく立体的に捉えることができるようになった。まだまだ自分の作品づくりに全力投球だが、将来は後継者育成も視野に入れている。
稲田さんの作業場は自然に囲まれた戸建の一階にある。工具の他にレコードやスピーカーも並ぶ。
「高校の時、DJをやっていたんです。遊び感覚ですけど」、作業場はどことなく新しさと古さが融合している。
「1から10の技術を極めることは難しいですが、0から1を生み出すのはもっと難しい。でも僕は象嵌の世界でまったく新しいものも作っていきたい。
若い象嵌仲間と 『1749』というブランドも作る予定です」。
伝統的な技術は当たり前に守り継承を志しながら、若さゆえの独自の感性で新しい発想も生み出す肥後象嵌士の新鋭。今後の活躍が楽しみである。